差し押さえにあった住宅のなかには・・。

不動産関係の仕事で競売物件の立ち入り調査を行った。

前所有者は様々な事情から債務超過に陥り
月々の返済が滞った挙句に家の差し押さえにあったもののようだ

債務超過の挙句、追い出された状況を鑑みると
今回の部屋の状況は筆舌に尽くしがたいほどに荒れ果てていることが予想された

キレイに使い、退去しても一円も帰ってこないのである
そればかりか恐らくこの家のために苦しいローンと返済に悩まされたであろう

これまで賃貸マンション・アパート退去後の部屋へ立ち入りする経験が多くあった
総じて安い家賃の部屋ほど退去後の部屋は荒れているというのが定番である

部屋の前でそれなりの覚悟をして、悪臭に耐える為の深呼吸をすると部屋の鍵をあける


そこで目にしたものは私の想像を良い意味で裏切るものだった

何も残されていない室内、不用品と思われる少量の荷物(収納ケースだとかという・・)は北側の小部屋に整理されている。

荷物の運び出された後のフローリングには塵ひとつ落ちていないばかりか
浴槽や洗面台などは髪の毛一本たりとも残っていないのである。

柔らかい西陽が差し込む室内は暖かく、穏やかな音楽が流れている様でもあった。

これまで見てきた数々の退去部屋とは違っていたし
少なくとも緊張していた私の気持ちを落ち着かせるに十分だった。

この家を差し押さえられ、退去を余儀なくされた

荷物を出し終わり
急に広くなった家を

慈しむように、
家族の成長を支えた家に感謝を込めて
掃除されたのであろう

荷物の置かれている北側の小部屋に戻る

取り残された小さなタンスの前側、一面にびっしりと
お子さんの貼ったと思えるシールがあった

その一部分にだけ
生々しいまでの生活感がとり残され

それまで私の内で鳴っていた音楽は
物悲しいものへと変わっていった

この家族のこれからの幸せを信じたい